
Spainらによる「The Battalion Commander Effect」という論文が、2021年8月25日にアメリカ陸軍戦略大学の季刊誌に掲載されました。
この研究では、1,745名の大隊指揮官とその下で勤務した36,032名の士官(中尉)を対象に、指揮官の資質が部下の士気や残留意思に与える影響を統計的に分析しています。
参考:The Battalion Commander Effect
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バトリオン・コマンダー効果とは
Spainらによって研究・発表されたバトリオン・コマンダー効果(Battalion Commander Effect)とは、組織の中で働く人々の仕事へのモチベーションや組織に対する信頼感は、直属の上司だけでなく、上司のさらに上司の態度や言動によって大きく左右されるというものです。
アメリカ陸軍では、兵士の士気や部隊のパフォーマンスに大きな差が出ることに注目し、その原因を調査したところ、兵士のやる気やチームの一体感は、直属の小隊長(直接の上司)よりも、部隊全体を束ねる中隊長・大隊長(その上の上司)の人柄や信頼性に強く影響されるという事実が分かったとのことでした。
つまり、現場で直接命令を出している人ではなく、その上の階層にいる上司の価値観や振る舞いが、組織全体の文化を形づくっているということです。
上司の上司が影響する理由
なぜ上司の上司の影響力が大きいのかは、以下のように推測できます。
上司のリーダーシップへの影響
管理職もまた、自分よりも上の存在から管理される立場です。
自分が強いリーダーシップを発揮し、部下を管理するためには、自分もまた適切に管理され、評価されている必要があります。
たとえば、現場の課題を上長に進言した際に真剣に耳を傾けてくれるのか、逆に責任をなすりつけられるのかといった対応一つで、自身の行動意欲は変わります。
上から支えられていると感じるとモチベーションは向上しますし、反対に「どうせ言っても無駄だ」「言えば自分が損する」と思えば、行動を取らなくなるでしょう。
組織の価値観への影響
組織の中には、明文化されていない暗黙のルールが数多く存在します。
たとえば、顧客への対応よりも上司の機嫌を優先した方が得、意見を出すよりも言われたことだけやる方が安全といったことです。
こうした空気はどこから生まれるのかというと、現場ではなく組織の上位の階層の振る舞いと意思決定に起因します。
経営層が、何を求め、何を許し、何に沈黙するか、その一つひとつが、現場にとっての判断基準になります。
見られている存在としての自覚
組織の上層にいる人物は、たとえ現場と直接やりとりをしなくても、常に見られている存在であることを忘れてはいけないはずです。
従業員は経営層の一挙手一投足を細かく観察しているわけではありませんが、「最近、社長の顔を見ない」「この件は上が黙認しているらしい」「急に方向性が変わった」といった断片的な情報をつなぎ合わせて、組織の気配を感じ取っています。
そしてその気配が、現場の判断や態度に影響を与え、さらには離職の引き金にさえなりえます。
会社で例えると、経営層の振る舞いは、意図しないかたちでも現場に伝わる可能性があるということになります。
最後に
Spainらの研究が示したバトリオン・コマンダー効果は、組織の規模が小さく、経営層の影響力がダイレクトに社内に伝わる中小企業だからこそ、より顕著に現れる現象だといえるでしょう。
組織の空気は、自然発生するものではなく、経営層から、静かに、確実に、全体に伝わるものだと考えられます。
以上、参考になれば幸いです。