実務家のためのROOT分析

経営におけるフレームワークで有名なものの一つにSWOT分析があります。
SWOT分析は、1960年代にアメリカのスタンフォード大学で行われた企業戦略研究プロジェクトが起源とされています。

歴史の長いフレームワークですが、実務で用いるにあたって不都合な点がいくつもあります。

SWOT分析の欠点

分析とは客観的でなければ意味がありません。 しかし、SWOT分析は主観的です。

「強み」「弱み」は特定のセグメントにおいて、競合が明確であればピックアップの精度は高くなるでしょう。

しかし、競合は不特定多数の場合、また新たに進出する市場をどのように設定しようかと選定する場面においては、SWOT分析は適切ではありません。

競合が明確ではないため、せいぜい得意なこと、苦手なことを挙げることしかできません。
しかし、自社が得意なことは強みではありません。 競合がもっと得意だったら相対的には弱みです。

ましてや、「機会」「脅威」に関しては、単にそう感じているにすぎません。

SWOT分析後にクロスSWOTをしたとしても、主観×主観になってしまいます。 妥当性の検証も非常に難しいものになります。

学問の世界におけるSWOT分析に対するマイナスの評価

学問の世界においても、SWOT分析に対する批判的な論文や研究は多数存在します。
その中でも、SWOT分析が実務での使いにくさを指摘した代表的な論文を以下にご紹介します。

『SWOT Analysis: A Theoretical Review』
著者: Gürel & Tat
掲載誌: The Journal of International Social Research, 2017年
主な批判点:

SWOT Analysis was developed in the periods when the environmental conditions were still. For this reason, it is not a valid technique in today’s world based on change and competition.

SWOT分析は、環境条件が安定していた時代に開発された。
そのため、変化や競争の激しい今の時代には有効な手法ではない。

Listing strengths on paper is prone to bias and is very different from testing the organization and experiencing the strengths at work.

紙に強みを書き出すのは、思い込みやバイアスが入りやすく、実際の現場で試してみたり、働く中で体感することとはまったく異なる。

SWOT Analysis has a general perspective as an approach and present general solutions.

SWOT分析は、分析結果が一般的な内容になりがちなので、特別な気づきや具体的な戦略にまではつながりにくい。

It is not possible to determine the priorities of the factors identified in SWOT Analysis, focus on them in detail, solve the developments and conflicts in different dimensions, and include views and suggestions based on different data and analyses.

SWOT分析では、出てきた項目のどれが大事かを決めたり、それを深掘りしたり、複雑な問題の整理をしたりするのは難しい。
様々なデータや分析に基づいた意見や提案をうまく取り入れるのも苦手な手法である。

SWOTではなくROOT

同じようなやり方で検討するのであれば、SWOT分析ではなくROOT分析を提唱します。

これは筆者オリジナルの手法で、SWOT分析のように状況をざっくりと整理するのではなく、売上向上のための要因を具体的に整理することを目的としています。

SWOT分析と比べてVRIO分析やファクトベースで補完しやすく、実行戦略へとつなげやすいのが特長です。

ROOTとはそれぞれ以下の通りです。

項目内容対応するSWOT
Resource(資源)売上向上に貢献する経営資源(VRIOで評価可)Strength
Obstacle(障害)売上向上に対する内部の阻害要因Weakness
Opportunity(機会)売上を向上させる外部的要因Opportunity
Threat(脅威)売上を低下させる外部的要因Threat

Resource(資源)

これは売上向上に資する経営資源を表します。
人的資源、物的資源、ノウハウ、仕入れや販売チャネルなど、売上向上につながる経営資源は全て対象です。

VRIO分析を行うことで、評価することが可能です。

Obstacle(障害)

売上向上にあたっての内部の阻害要因を表します。
主に、経営資源の不足が該当します。

Opportunity(機会)

売上向上の機会です。
市場変化、法改正、経済動向、市場のトレンドなどの環境の変化です。

Threat(脅威)

売上低下につながりかねない外的要因です。
市場変化、法改正、経済動向、市場のトレンド、競合といった環境の変化です。

クロスROOT

SWOT分析にクロスSWOTがあるように、ROOT分析も要素を掛け合わせることで具体的な戦略を立案します。

ただし、掛け合わせるのはResource(資源)×Opportunity(機会)だけです。
それで検討された方向に対して、Obstacle(障害)、Threat(脅威)がどの程度影響するか、影響するならどのように対策をするかを検討します。

1.Resource(資源)×Opportunity(機会)

売上向上につながる経営資源を生かして、いかに機会を掴むのかという戦略・施策の核を検討します。

2.Obstacle(障害)の影響の確認

上記の施策を実行する上で、Obstacle(障害)はどの程度の障害になるかを検討します。

さほど障害にならないのであれば良いですが、障害となるようなら補完、補強、克服、無力化といった対策を検討します。

3.Threat(脅威)の影響の確認

外部のThreat(脅威)が売上向上のための施策に対してどの程度のマイナスの影響がありそうかを検討します。

無視できないほどの影響であれば、回避、低減、耐性化といった対策を検討します。

最後に

アカデミックな世界においても、有用性に批判的な意見があるSWOT分析ですが、実務上も多く使用されています。

しかし、その分析は結果に結びついているでしょうか。
整理した気がする、戦略を考えたつもりでは意味がありません。

SWOT分析の実務的な限界に対する問題意識から、より実務に即したフレームワークを検討してみました。 ぜひ一度、試していただければ幸いです。

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