人口減少時代の中小企業経営

2008年の1億2,808万人をピークに、我が国の人口は減少に転じています。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、今世紀半ばには我が国の人口は1億人を下回ることが見込まれているそうです。

未来の市場環境がどうなるかということを見通すことはできませんが、我が国の人口が減少するということは確実であることは分かっています。
そのため、企業の経営は、人口が減少することを前提としたものでなくてはいけません。

では、人口減少の影響と、それを踏まえた経営とはどういったものかを考えてみましょう。

国内市場の縮小

人口減少とは商品・サービスの買い手が減る……つまり、日本全体でみると市場が縮小するということです。
人口が増加していた時代であれば、人口増加に伴って国内の市場も自然と拡大していました。
しかし、市場の縮小にともなって需要そのものが減っていくため、既存のやり方、既存のビジネスモデルのままでは売上は低下してしまいます。

売上は「客数×客単価」に分解することができますので、客数と客単価の視点で考えてみましょう。

市場からの撤退もすぐに行えるものではありません。
市場が縮小しつつある中で、それぞれの事業者がすこしでも売上を維持しようとすると、必然的に市場内の競争は激しくなってしまいます。
そういった状況において、売上を維持するために商品・サービスの供給量を減らさないとどうなるでしょうか。

需要と供給のバランスが崩れ、需要過多になってしまいます。
そうなると、売り手は少しでもコストを回収しようとして価格を下げてでも販売しようとします。

客数が維持できた場合

客数が維持できた場合は、客単価のみが下がることになります。
客数が変わらないとなると、単価が下がった分だけ売上が純減することになります。

客単価の低下に伴って、販売単位当たりの利益率も下がってしまいますので、会社全体の利益率も低下してしまいます。

客数が増えた場合

競争に勝って、客数が増えることも考えられます。
その場合は、当然ながら客単価が減った分を客数でカバーできれば売上は上がりますし、カバーできなければ売上は下がります。

ただし、いずれの場合も販売単位当たりの利益率も下がってしまいますので、会社全体の利益率も低下してしまいます。

また、市場が縮小しているという点は変わりませんので、未来のいずれかの時点で撤退する必要があることには留意しておく必要があります。

客数が減った場合

客数も客単価も下がるわけですから、売上の減少は小さくないでしょう。

需要の変化

人口の減少は需要にも影響を与えます。
その一例として、インバウンド需要の増加を例にして説明いたします。

我が国の人口減少による内需の縮小を見込んで、政府が外国人観光客の呼び込みに力を入れ始めたのはご承知の通りです。
その結果、外国人観光客が想定をはるかに上回るペースで増加しています。

2012年時点での外国人観光客数は約836万人でしたが、翌年の2013年は1,036万人となりました。
外国人観光客数はそのまま右肩上がりで増え続け、2019年では約3,188万人となっています。
これだけの大きな変化があるということは、需要に対するインパクトも小さくありません。

外国人観光客数の増加に伴って宿泊施設の利用者数も増えるため、ホテルの数が増加しています。
ホテルが増加すると、ベッド、テレビやシャワーといった設備類の需要や、リネン類、せっけんやシャンプーのようなホテルで使用される消耗品の需要が増加します。
また、リネン類のホテルへの提供やクリーニングを行う事業者、食材の納入業者といった、宿泊施設にサービスを提供している事業者の需要も増加します。

このように、人口の減少は様々な市場の需要に影響を与えます。

労働力確保の困難化

人口が減るということは、単純に働き手の数も減ります。
労働力の確保も難しくなることは言うまでもありません。

需要に対して供給が減るわけですから、採用するための費用、雇用するための費用(給与)も増加します。

また、数の減少は質の低下にもつながります。
応募がたくさんあって複数の応募者の中から選べる状況と、応募がないためよほどのことがない限り採用するといった状況を比較すると、質の低下は否めないでしょう。

外国人労働者やDXによって、全ての事業者の全ての業務に対応できるわけではありません。

人口減少時代の中小企業経営はどうあるべきか

人口の減少による市場の縮小は売上の低下につながります。
採用が難しくなるということは費用の増加につながります。
「利益=売上-費用」ですから、人口の減少は企業の利益が低下が見込まれるということです。

社会の構造の変化に対して、生産効率の改善や販促手法の見直しといったオペレーションの改善だけでは解決できません。
事業ドメインの変更、ビジネスモデルの変更といった抜本的な対応をして、一人一人の従業員が提供する付加価値を高め、従業員一人あたりの生産性(売上や利益)を向上させていく必要があります。

具体的には、高い付加価値に対して対価を支払う買い手に対して、可能な限り差別化をして競争を避けながら高い付加価値を提供することで収益を確保するといったことが求められます。

環境が変わってしまい、現状のビジネスが立ち行かなくなってから慌てても対応はできません。
既存市場の掘り起こしのような漸進的な経営も必要ですが、その一方で海外市場の開拓、ターゲット層を変える、ビジネスのスキームを変えるといったことも、今のうちに検討する必要があるのではないでしょうか。

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