士業はAIに奪われるのではなく、時代に取り残される

「AIが士業の仕事を奪う」と言われ続けて、もう10年以上が経ちます。

確かに、税理士や行政書士をはじめとした一部士業の業務は、決められた書類を作成して、しかるべき場所に提出する作業の代行ですから、AIの最も得意とする領域だといえます。

そのため、遅かれ早かれAIによって仕事を奪われる部分は否定できません。

しかし、それ以外に「AIによる環境変化についていけずに食べていけなくなる」 という面もあるのではないでしょうか。

士業が変化についていけない理由

1. 自分でサービスを考えていない

基本的に士業には国家資格で守られた独占業務があります。
言い方を変えると、国が用意してくれた付加価値をこなす作業をしているといえます。

他の職業であれば、誰向けにどんな商品・サービスを提供するといった事業ドメインを考えます。
それに対して、士業は独立にあたって、「どのように集客するか」といった、業務レベルの発想を持っていた人がどれだけいるでしょうか。
今現在、世の中の流れに対して、「どうやって新しい価値を生み出すか?」という発想を持っているでしょうか。

中小企業診断士には独占業務はありませんが、補助金の代書のような作業代行で収益を上げている場合も、自ら価値を設計している訳ではないため、この構造に当てはまります。

2.専門領域とは違う視座が求められるから

士業は基本的になんらかの法律に基づいた専門領域をもっています。
言うなれば、業務におけるプロフェッショナルです。

しかし、経営というのは業務レベルの虫の目ではなく、もっと高い経営レベルの鳥の目の視座と抽象度の高い領域での思考が求められます。

税理士は税法においてはプロですが、労基法においては素人です。 弁理士は知財においてはプロですが、会計においては素人です。
このように、専門家も専門外の領域ではただの素人です。

そして、士業は経営のプロではありません。
ひょっとしたら、経営レベルで考えようという発想すら持っていないかもしれません。

3. 答えがある世界にいるから

士業というのは法律に則って業務を行います。
したがって、常に法律という答えを取り扱っています。

しかし、経営には答えはありません。

環境の変化に対して経営資源をやりくりして対応するのが経営ですが、犯罪を犯す、人から指を指されるような行為をするといったことがなければ、どこを目標に設定しようと、目標達成のために何をやろうと構いません。

普段の自分のいる世界と、まったく違う視座、視野、マインドセット、受け取り方、考え方を自然とできるような方がいたら別ですが、普通はそのようなことを自然と行うのは難しいでしょう。

業務改善ではなくビジネスモデルの変革が求められる

AIに仕事を奪われるのではなく、むしろAIを活用して業務改善すると考えていらっしゃる士業の方も多いのではないでしょうか。

AIを活用しての業務の改善というのはまったくその通りで、異論の余地はありません。
しかし、「業務改善=付加価値の向上」ではありません。

業務を効率化しても、クライアントにとっての価値が上がるわけではないし、遅かれ早かれ誰もがすることですから差別化要因としても弱いでしょう。

単なる効率化だけでは、価格勝負の域を超えることはできません。

業務の最適化は前提となる中で、AIによる業務改善が当たり前の時代にどのようなビジネスモデルで、どのような付加価値を生み出すのかという点が重要です。

最後に

AIが進化しても、士業の業務のすべてがなくなるわけではないでしょう。
ただし、定型業務をこなすだけの士業は間違いなく淘汰されます。

士業の強みは、専門的な法律の知識に基づいた作業ができることです。
しかし、知識、作業そのものがAIによって、その価値の多くを失ってしまうからです。

知識や作業の価値が極めて小さくなる時代に、どのような付加価値を生み出し、どのように提供をするか、これがAI時代の士業の戦略だと考えられます。

これまで積み上げてきた知見を、時代に合わせて再構築できるかどうか、近いうちにその真価が問われることになるでしょう。

以上、参考になれば幸いです。

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