レイヤーを混ぜるな

経営に関して考えるとき、上手くいかない大きな理由の一つはレイヤーがごっちゃになっていることです。

戦略レベルの話なのか、手段レベルの話なのか、このレイヤーがあいまいだと、効果的な回答を出すどころか、全く見当違いの対応になりかねません。

例題

次のような相談があったとします。あなたなら、どのようにアドバイスするでしょうか。

「印刷会社を経営しています。市場縮小が響いて、売上高が10年で6割まで減ってしました。Webサイトも作っていないので、作りたい。でも誰に頼めばよいのか分からない。最近はSNSも流行っているし、SNSも使っていきたい。」

どう考えたか

条件をあまり限定していないので、色々と想像できる余地はあるかもしれません。しかし、Webサイトの作り方やSNSの活用方法といった具体的な手段をアドバイスすると考えた方は、少し注意が必要です。戦略レベルのレイヤーで企業を見ることができていない可能性が高いからです。

売上減少の理由は市場縮小です。果たしてWebサイトやSNSが、市場縮小という経営環境変化に対する根本的解決策になるでしょうか。

WebサイトやSNSというのは、あくまでも相談者が「こうしたら良いのではないか」と思っている手段でしかありません。しかも、Webサイトもなく、SNSもやっていない──つまり、過去にそれらで売上を大幅に上げた実績がある訳でもありません。

ちなみに、ChatGPT(GPT 5.2)は以下のような回答をしました。全文だと長いので、最初の部分だけ引用します。

「Webサイト制作」「SNS活用」を“目的”にせず、まず事業の立て直し方針を整理し、その上で外注先を選ぶという順で助言します。いきなり制作会社やSNS運用代行に頼むのは勧めません。

① 現状整理(最優先)

最初に確認します。

  • 売上が落ちた理由は「市場縮小」だけか
  • 主力顧客(業種・規模・用途)は何か
  • 印刷以外に評価されている強み(短納期、企画力、小ロット対応、加工技術 等)は何か

ここが曖昧なままWebやSNSに進むと、「見た目は立派だが仕事につながらない」状態になります。

② Webサイトの位置づけを明確化

Webサイトは集客ツールではなく営業補助ツールと整理します。
目的は次のどれかに限定します。

(以下略)

なぜレイヤーが混ざるのか

経営レイヤーで考えるところを手段のレイヤーで考えてしまう理由は極めてシンプルです。人間は抽象的な思考よりも、手段のような具体的なことの方が、脳の負担が小さいからです。つまり、複雑で高度な思考を避けて、楽な領域で思考しようとしてしまっているということです。

それに対して、ChatGPTは入力されたプロンプトに則って処理をするだけなので、人間のように無意識に楽をすることはありません。先ほどの回答も、内容の妥当性はともかく、必要なレイヤーから処理をしようとはしています。

無意識に楽をしようとする人間と、そうではないAIの対比を見ていただきましたが、人間は無意識に楽をしようとするので、意識的に抽象度の高いレイヤーで考えようとしなければいけないのかもしれません。

目先の販促策も必要かもしれませんが、今だけの表面的な対応であり、せいぜい数年先しか見ていない回答です。 例題に関しては、5~10年以上の先を見据えて、事業ドメインの再定義や資源配分について検討すべき内容です。

最後に

経営を行う中で、経営レベルから現場レベルまで様々なレイヤーで様々な事象が起こります。レイヤーを取り違えると、資金と労力が無駄になるうえ、何の成果も得られないということになってしまいます。

経営レベルのレイヤーの問題の場合、経営への影響が非常に大きいので、特に気を付ける必要があります。

以上、参考になれば幸いです。

経営に関するご相談、お問い合わせなど、お気軽にご連絡ください。

CONTACT