経営を古典に学ぶ(孫子④)

洋の東西を問わず、様々な古典から中小企業の経営において通じる原理原則を学んでいきましょう。
今回は、孫子の最終回となる第4回目です。

なお、第1回目~第3回目はそれぞれ以下の通りです。
経営を古典に学ぶ(孫子①)
経営を古典に学ぶ(孫子②)
経営を古典に学ぶ(孫子③)

第十 地形篇

タイトル通り、地形について述べています。
そして、兵士の中で逃亡者、気持ちが緩む者、気持ちが萎える者、崩壊する者、乱れる者、敗走する者が出るのは、将軍の責任であるとしています。
これら6つの事柄は敗北につながるため、将軍は十分に心得ておくように説いています。

経営資源はヒト、モノ、金、情報と言われています。
その他に時間や知的財産を加えることもありますが、いずれにしてもこれらの中で意志を持っているのはヒトだけです。

ヒト、つまり従業員には様々なタイプがいます。
与えられた仕事はきっちりこなすけれども、人当たりが強くて部下のモチベーションを下げたり、能力も向上心も高いけれど、いずれ独立するつもりがあるといったように、能力も経験も性格も目標も様々です。
そういった人たちを管理するのがマネジメント層の仕事になります。

しかし、マネジメント層の人たちは「管理(あるいはマネジメント)」とは何をすることだと考えているのでしょうか?

  • 業務の進捗管理
  • 上からの命令の伝達
  • 部下の教育
  • 意思決定
  • 労務管理

マネジメント層の仕事は、自分が管理するメンバーがそれぞれの能力を発揮して、企業の戦略に則って設定された目標・成果を達成するように取り計らうことのはずです。
したがって、上に挙げたようなことをただ行うだけなら、それは管理ではありません。
役割分担して、担当している業務を行っているだけです。

基本的に昇進して管理職になる訳ですから、役職が上がっても目線の高さが変わっていない可能性があります。
言い方を変えると、役職が上がっても、本人が意識して立場に応じた目線の高さで物事を見ることができないと、適切なマネジメント業務ができないということになります。

第十一 九地篇

九地篇も地形と兵士のモチベーションと統制の大切さ、将軍のあるべき姿について論じています。
さらに、「兵の情は速やかなるを主とす。人の及ばざるに乗じて不虞の道に由り、其の戒めざる所を攻むるなり」とスピード、敵の不備を突け、相手が想定しない手法で警戒していない地点を攻めるべしと説いています。

九地篇は「是の故に始めは処女の如くにして、敵人、戸を開くや、後は脱兎の如くにして、敵人、拒ぐに及ばず」で締めくくられています。
このように、孫子は行動するときは、一気に行うことことが重要だと繰り返し述べています。
兵士のモチベーションが高い内に行えば勢いをつけて成功する確度が高まりますが、長引くとその分だけ兵士のモチベーションも下がってしまうというのはその通りでしょう。

社内の勢いやスピード感は、企業の社歴によっても変わります。
老舗企業とベンチャー企業とでは、仮に売上や会社規模が同じであっても、老人と若者のように社内の勢いやスピード感も異なります。

勢いがある方が良いでしょうし、スピード感をもって事業をする方が良いでしょう。
それを変えることができるのは、社内では経営者しかいません。

第十二 火攻篇

火攻篇では、タイトル通りに火攻めについて説いています。
火攻めの対象は5種類あり、それぞれ兵士・食料や物資の貯蔵庫・輸送中の輜重車・軍事物資の倉庫・道や橋としています。
さらに、戦争の引き際と戦争に対する君主の心得について述べています。

経営において、実際に競合の店舗や倉庫に火をつける訳にはいきませんが、攻撃する箇所は色々あるというのはヒントになるのではないでしょうか。

孫子のいう火攻めの5種類の対象は実際に戦う兵士だけではありません。
食料や物資などを焼いてしまうことで、相手は戦闘が続けられないようにしたり、道や橋を焼いてしまうことで移動の自由を奪うといった形で有利な状況を作ろうとしています。

同様に、競合と同じターゲットに対して営業をするだけが方法ではありません。
サプライチェーンの川上や川下の事業者に対してアプローチはできないでしょうか。
または、自社が有利になるような協業先は考えられないでしょうか。

第十三 用間篇

間者という言葉がありますが、ここでいう「間」とはスパイのことです。
用間篇では、スパイについて述べられています。

孫子の中で重要なために繰り返し述べられていることの一つが状況の把握です。
競合企業にスパイを送り込み、情報を入手するというのは現実的ではありませんが、情報収集は常に行う必要があります。

日本語では「情報」ですが、英語にはdata、information、intelligenceと3つの種類があります。
また、直接得た一時情報もあれば、第三者が提供している二次情報もあります。
欲しい情報が欲しい形で入手できるとは限りません。

しかし、常日頃から情報感度を高め、断片的に入ってくる情報を時には見える化し、時には情報から類推し、経営判断の材料にすることが、経営者としての仕事の一つです。

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