経営を古典に学ぶ(孫子③)

洋の東西を問わず、様々な古典から中小企業の経営において通じる原理原則を学んでいきましょう。
今回は、孫子の第3回目です。

なお、第1回目と第2回目はそれぞれ以下の通りです。
経営を古典に学ぶ(孫子①)
経営を古典に学ぶ(孫子②)

第七 軍争篇

軍争とは、相手の機先を制して有利に導こうとする駆け引きのことで、孫子は軍争ほど難しいものはないと説いています。
軍争の難しさは、遠回りの道を近道として、不利な状況を有利なものに変えていくことにあるとし、わざわざ迂回路を通って遠回りしつつ、敵に餌を撒いて誘い出して動きを留めて、後から出発したとしても敵より先に戦場に到着できるようにする。
これができる人間は、遠回りを近道に変える「迂直の計」を知っている者であると述べています。

勢いに乗じてM&Aを行ったり、プロモーションの利用で急激に売上を伸ばす企業も存在します。
しかし、売上の拡大に組織体制の成長が追い付かず、提供する品質が低下してしまって後発の企業に抜かれ……といった企業を目にした経験がおありのはずです。
急がば回れということわざがあるように、確実に顧客を獲得し、関係性を強める方が一見進捗が遅く見えるかもしれませんが、結果としてそちらの方が結果につながることもありえます。

孫子は繰り返し状況の把握の重要性を訴え、さらに軍争篇では行動にメリハリをつけるように述べています。
有名な武田信玄の旗印のもとになった箇所ですが、軍隊が行動するときは風のように迅速に、待機するときは林のように静かに、攻めるときには火のように、動かないと決めたら山のように動かず、陰のように実態を悟らせず、雷のように勢いをもって行わなくてはならないとしています。
そして、略奪をする時は兵を分散し、領土を拡大するときは要所をそれぞれ分かれて守り、利害を計算しながら動く。
相手に先んじて迂直の計を成功させた方が勝者となるというのが、軍争の原理原則であると説いています。

行動は素早くするためには判断を素早く行わなくてはいけません。
行動しないことと、判断していないので動けないのとでは意味が異なります。

以前コラムで書いたように(即断・即決・即実行を組織に浸透させる)、経営者層から全ての従業員の方々が即断・即決・即実行していかないと、いくら機会が目の前に転がってきても逃してしまうでしょう。

また、孫子は兵士の気力にも触れています。
朝方の気力は鋭く、昼からだんだん気力が下がり、夕方になると尽きてくるため、戦上手は敵の気力が充実している時ではなく、気力が尽きてきたころに攻め込むとしています。
さらに、高い丘に陣取る敵を攻撃すること、丘を背にして攻めてくる敵を迎撃すること、敗走しているように見せかけている敵の追撃を禁じ、敵を包囲した場合には逃げ道を残しておいて自国に逃げ帰ろうとしている敵の退路を断ってはならないとしています。

競合と比較して、競合の方が有利な状況で競争してはいけないのはいうまでもないでしょう。
さらに、「窮鼠猫を噛む」「背水の陣」といったことわざがありますが、必死になっている相手は大きな力を発揮します。
そのため、この市場だけはどうしても守りたいというような相手が必死になって守ろうとする市場に進出すると、競合はその市場に経営資源を集中するため、過剰なコストがかかり、手痛いダメージを受けかねません。

第八 九変篇

周囲の国との位置関係や、地形によっては自軍にとって有利不利になるものがあり、それらに精通しておかないと地の利を活用できないと述べたうえで、智者の配慮というものは物事のプラス面とマイナス面の両方を考えるから物事が順調に進むとしています。
さらに、用兵の原則は敵が来ないことをあてにするのではなく、いつ来ても良いようにする備えをあてにし、敵が攻撃してこないことをあてにするのではなく、攻撃できないように整えられた体制をあてにするように説いています。

何事においても、プラス面とマイナス面、リスクを鑑みて判断を行う必要があります。

新規市場への参入を例にすると、自社にとって利益が得られる市場と、そうでない市場かどうかの判断が必要になります。

容易に参入できる市場は、競合にとっても同じことが言えます。
競争が激しくて利益が得られないという可能性がありますし、既存の企業がしっかりと抑えていて、新規参入者にはチャンスがなかったということも考えられます。

また、成長が期待できる市場に対しては、多くの競合が参入して競争が激しくなります。
競争が激しい環境であっても、売上を上げることができる可能性はありますが、競争に敗れて思うような売上を上げられないかもしれません。
同様に、利益を上げることができる可能性はありますが、販管費が過剰にかかって利益をあまり得られないかもしれません。

市場の参入の判断だけでなく、既存の市場をターゲットにし続けることに対しても、同様にプラス面とマイナス面とリスクを考えておく必要があります。
技術の発展によって、自社の存在価値がなくなるなんてことは珍しくありません。

競合や代替品によって市場が奪われないことをあてにするのではなく、新規参入者や代替品が現れた時のことを考えて、常に備えをしておくということが求められます。

第九 行軍篇

行軍や陣を構える際の心得として、不利な状況を避けて有利な状況を得られるように行動することを徹底して説いています。
また、敵の使者や兵士の状態から状況を察するための要点、兵士への対応方法を述べています。

経営も軍事も共通していると思われるのは、結果に影響する要素が多く、それを誰も把握することができないということではないでしょうか。
だからこそ、少しでも確度を高めるために万事徹底することが大事であると考えられます。

また、組織は人によって構成されています。
従業員に目を配って適切に接し、透明性があって公正な評価をすることことで、従業員の方々はモチベーションを高め、その力を発揮できるのではないでしょうか。

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